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題名:  決死の猛獣狩
著者:  南 洋一郎
発行:  大日本雄弁會講談社 (昭和12年=1937年1月25日初版/昭和12年6月22日12版)
定価:  90銭
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 南洋一郎(なんよう・いちろう、ぢゃなくて、みなみ・よういちろう 1893〜1980)は山中峯太郎と並ぶ戦前の人気少年小説家で、 戦後はポプラ社刊の児童向けルパン・シリーズで学校図書館御用達となったところも似ていますね。池田宣政名義 では偉人伝などの著作もあります。
 その筆名からも想像できるように人外魔境を舞台とする冒険譚ではスリリングにして奇想天外、他に類を見ない小説世界を 形作っています。代表作は『吼える密林』『決死の猛獣狩』と言ったハンティングもので、たいていは欧米人探検家の一人称 という形となっております。内容もなかなか手に汗握るというか血湧き肉躍るというものなのですが、物語に添えられた リアルな挿絵も、忘れがたい印象を残しています。

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(1)『決死の猛獣狩』
 表紙および裏表紙。どういう状況下にあるか一目でわかりますね。挿絵のお手本とも言えるでしょう。

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(2)扉および目次の末尾。挿絵画家として4名の方が名を連ねています。椛島(樺島)氏は『亜細亜の曙』の挿絵も 手がけられてましたね。

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(3)猛獣狩と言えばこれ。獲物を焚き火で炙って貪り食うのですねー。子供心に、これは旨そうでした。なお、この絵は 鈴木御水氏筆。物語のほうは、猩々(オランウータン)を動物園に売り飛ばすために生け捕りにするという現代の基準では とんでもないもので、しかもこの猩々の凶暴なこと。加えて文中にはなぜかショーペンハウアーの引用まで出てくるという 該博さも手伝って、荒唐無稽というよりは、うーむジャングルとはそういうものなのかと納得させられてしまうのでした。

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(4)これは珍しく日本人が主人公の話。スマトラのゴム園で働く象という設定です。「猛獣狩り」とはちょっと違う雰囲気ですね。 この挿絵は椛島勝一氏。

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(5)怖いですねー食われてますねー。もっともこのアメリカ人はゴリラを殺したりやりたい放題なのですけど。しかも命がけで手伝ってくれる土人たちに渡す報酬は、 塩とガラス玉だけだったりするのですねー。これも椛島氏の絵です。

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(6)これはちょっと変わったインディ・ジョーンズ的作品です。シバの女王の金剛石とか蕃族少女なども出て参ります。この挿絵は伊藤幾久造氏。

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(7)これも冒険ものを期待していたコドモにとってはちょっと説教くさいかなーという作品。難破した漁船員日本人の鐵造少年の体験談です。 こういうのを読むと、当時の価値観としてはやはり白人種が一等民族、黄色人種なかでも日本人が二等民族、支那人はその下、更に下が黒人・土人・蕃人と 序列がはっきりしているのが窺えますな。今でもかなりの人がそう思っているのかも知れませんけど。この挿絵は村上松次郎氏。

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(8)例によって奥付ページですが、「著作権は著者発行者共有」というのが珍しいですねー。あるいは南さん、かなり前金を貰っていたのか と勘ぐりたくなったりして。

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(9)これは『吼える密林』の広告。正直なところ、こっちのほうが面白いのですけど、残念ながら紛失してしまいました。復刻版 では入手できますけどね。

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(10)巻末広告がまた宣伝上手なのだった。上ページ、佐藤紅緑とサトウハチローが並んで出ているというのもほほえましい というか何というか。(参考→『血脈』)
中ページ、少年小説の分野も次第にきな臭くなってきてますね。
下ページはやっぱり大日本雄弁会講談社の面目躍如というところでしょう。

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