◆ 資料1 講談社刊「われらの文学」ラインナップ(1965〜1967)
編集委員:大江健三郎・江藤淳

 1960年代後半、世界的にも日本でも「迷い」の時代が到来しました。これまでの価値観が問われ、 ある者は強権に屈することを選び、ある者はあくまで反抗を選びます。こうしたなかで人々の疑問に 答えるために文学が存在することを疑う者はほとんどおりませんでした。文学者は単なる風俗の記述者 にとどまらず「先覚者」「オピニオン・リーダー」であると認められ、それだけの期待と責任を負っていたのです。
 当時編まれたこの文学全集は、その清新なタイトルと言い「文豪」を排した選択と言い、若い世代にも 受け入れられて行きました。もちろん「思想の自由」を標榜する以上、左右硬軟総花的とも言えますが、それだけに読者は幅広い視点を 養うことができたとも言えるでしょう。今日、こうした「青年のためのガイド」となりうる文学選集が企画すらされないのは残念な気もしますね。

著者 収録作品   ひとこと
1 野間宏 わが塔はそこに立つ/顔の中の赤い月 やっぱり「戦後」はこの方から始まるのでしょうか。『真空地帯』の皇軍内務班のイジメ体質は今につながっています。
2 武田泰淳 風媒花/蝮のすえ/「愛」のかたち/流人島にて/ひかりごけ/士魂商才/誰を方舟にのこすか/地下室の女神 首が光るのよ〜お肉を食べたら〜。『快楽(けらく)』という作品もありますがもちろん快楽的ではありません。
3 椎名麟三 美しい女/深夜の酒宴/媒妁人 「議論小説」というジャンルもありましたねー。
  梅崎春生 狂い凧/桜島/ボロ家の春秋/記憶 印象は薄いのですが、「桜島」は読んだはず…。
4 大岡昇平 花影/俘虜記/野火/朝の歌/来宮心中/妻/母/父/叔母/ザルツブルクの小枝/沼津/黒髪/逆杉 「野火」「俘虜記」「レイテ戦記」は戦争を語り伝えるためには必読書と言われたのですがねー。
5 三島由紀夫 絹と明察/美しい星/橋づくし/憂国/魔法瓶/月/雨のなかの噴水/剣 このチョイスは意外と三島の本質を衝いているように思えます。明察的企業家というのは一つの理想像なのかも。
6 井上靖 風涛/猟銃/闘牛/通夜の客/あすなろ物語/楼蘭/洪水/狼災記/補陀落渡海記 ちょっと気恥ずかしいのだけど「しろばんば」「あすなろ物語」はよかったです〜。
7 安部公房 他人の顔/けものたちは故郷をめざす/飢餓同盟/赤い繭/デンドロカカリヤ この巻は確か持っていたはず。安部さんは高校生の頃わからんくせにカッコつけて読んでいたから。
8 島尾敏雄 贋学生/島の果て/夢の中での日常/格子の眼/鎮魂記/出孤島記/兆/子之吉の舌/離島のあたり/帰巣者の憂鬱/反芻/川流れ/帰魂譚/われ深きふちより/狂者のまなび/重い肩車/治療/のがれ行くこころ/転送/ねむりなき睡眠 島尾さんでは「狂妻もの」よりも学徒戦記もののほうが好きでした。平和な島と戦争の対比のつらさ。
9 堀田善衛 広場の孤独/鬼無鬼島 岩波新書「インドで考えたこと」がいちばん入りやすかったかも。「ゴヤ」も「ミシェル」も読もうと思ったまま時は過ぎぬ…。
  深沢七郎 楢山節考/笛吹川/甲州子守唄 「楢山…」は映画もよかった。「風流夢譚」事件なんてもはや誰も覚えちゃいないのかなー。
10 福永武彦 草の花/告別/河 まだまだ人気の福永さん。今でも読書系のサイトではしばしば話題になります。『海市』『廃市』『風のかたみ』と言った長編小説の題名も印象的。
  遠藤周作 海と毒薬/アデンまで/白い人/札の辻/四十歳の男/フォンスの井戸 実はわたくしは好きでした、狐狸庵センセイ。『沈黙』はもちろんとして『おバカさん』などのユーモア系もいいですねー。
11 小島信夫 抱擁家族/女流/小銃/殉教/微笑/馬/アメリカン・スクール/四十代/郷里の言葉/女の帽子/自慢話/十字街頭/階段のあがりはな/実感女性論 とりあえず読んだと思うけど、印象は薄いです〜。
12 安岡章太郎 海辺の光景/遁走/青葉しげれる/相も変らず/むし暑い朝/悪い仲間/陰気な愉しみ/ガラスの靴/質屋の女房/家族団欒図/軍歌/裏庭/ソビエト感情旅行 「ガラスの靴」のべちゃべちゃ恋愛、はまってました。長編『流離譚』は忘れがたい。
13 庄野潤三 静物/夕べの雲/愛撫/プールサイド小景/相客/道/鳥/秋風と二人の男/ガンビア滞在記 今や「老人の書く老人文学」の旗手。いやむしろ、娘さんの「足柄山からこんにちは」のほうが有名だったりして。
14 吉行淳之介 砂の上の植物群/原色の街/男と女の子/闇のなかの祝祭/驟雨/娼婦の部屋/寝台の舟/鳥獣虫魚/青い花/海沿いの土地で/子供の領分/不意の出来事/紫陽花 この退廃的な色情、好きにはなれないのに惹き付けられ、青少年には毒でしたねー。
15 阿川弘之 雲の墓標/年年歳歳/光の潮/鱸とおこぜ/野藤/紺絣鬼縁起/花のねむり/友をえらばば/順ちゃんさと秋ちゃんさ/夜の波音 硬派の江田島魂を残している方。『最後の海軍大将・井上成美』が印象的。
  有吉佐和子 紀ノ川/地唄/墨 有吉さんの作品も好きでかなり読みました。完成度高く、読者を必ず満足させてくれます。 
16 曽野綾子 たまゆら/遠来の客たち/火と夕陽/べったら漬/人間の皮/初めての旅/長い暗い冬/菊薫る 出た、日本「競艇」財団理事長閣下。エラい人はどうもね…。『天上の青』は評価が分かれたな〜。
  北杜夫 どくとるマンボウ航海記/夜と霧の隅で/谿間にて マンボウシリーズもいいけど『楡家のひとびと』は傑作ですねー。モデルうんぬんよりなにより面白いです。
17 石原慎太郎 行為と死/太陽の季節/処刑の部屋/完全な遊戯/ファンキー・ジャンプ/鴨/亀裂 出た、都知事閣下。いや、陛下かなっ。
18 大江健三郎 性的人間/叫び声/セヴンティーン/戦いの今日/人間の羊/飼育/死者の奢り/奇妙な仕事/芽むしり仔撃ち この巻は持っていたはず。つーか、これで初めて『性的人間』を読みました。期待に胸をふくらませて。
19 開高健 日本三文オペラ/ロビンソンの末裔/パニック/裸の王様/流亡記 日本アパッチ族を描いた『日本三文オペラ』は梁石日さんに言わせると朝鮮人が描かれていないとのことだけど、やはり面白かったです。「裸の王様」の感覚も好きでした。どれもベトナム体験と『輝ける闇』以前ですけどね。
20 井上光晴 地の群れ/虚構のクレーン/死者の時/ガダルカナル戦詩集/妊婦たちの明日 「左翼文学」というのは今ではほとんど読まれていないのではないかと思われますが、硬質な文体は独特の世界を持っています。
21 高橋和巳 悲の器 この方は当時ひそかに師と仰いでおりました〜。小説はもちろんエッセイまで追っかけて読んだのはこの方だけです。詳しくはいずれまた。
  倉橋由美子 パルタイ/囚人/宇宙人 独自の世界、マジメなファンタジーとでも言うべきかな。
  柴田翔 されど、われらが日々 この方の作品、2作しか読んでいないのですけど、それで終わりだったのか? でも東大のセンセだからいいのか。
22 江藤淳 小林秀雄(第1部)/夏目漱石(第2部)/アメリカと私 文学全集に評論が入るのも珍しいけど、このカップリングもなかなか。『漱石とその時代』は記憶に残っています。
  吉本隆明 マチス書試論/丸山真男論/転向論/埴谷雄高/詩とはなにか/古典論 『言語にとって美とはなにか』というのが当時出版されましてねー、しののめ君は読んでましたがわたくしは脳が劣っていたため放り出しました。



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